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10月9日(金)の稽古です。 [稽古内容]

ワークショップ 第5回
 
「あなたの目が好き」レッスン
 
①ABが対面で立ちます。本来は1メートルほどの間隔でやりたいのですが、感染のリスクを避けて3メートル以上の間隔をとりました。
②AがBの目を見て「あなたの目が好き(君の目が好き)」と言います。
③Bはそれを聞いて「俺(僕)の目が好き?(私の目が好き)」と問い返します。
④これを繰り返します。ABともに相手の台詞で心が動いたと思ったら手を挙げます。
⑤ABともに2回手を挙げたら稽古を止めます。なかなか手が挙がらないときにも適当なところで止めます。
⑥ABに「どんな風に言ったら相手の心が動いた?」「どんな風に言われた時自分の心が動いたか?」、手が挙がらなかった場合には「なぜ挙げてもらえなかったか?」「なぜ手を上げなかったか?」を質問します。見ている人にも感想を言ってもらいます。
⑦AとBの台詞を交換して②~⑥をもう一度やってみます。
⑧二組目からは始める前に少し時間をとって、どういう状況での台詞のやり取りなのかを想像してもらいます。
 
 これは「台詞で相手の心を動かす・動かされる」ことを実感するための稽古です。
 きちんと気持ちのやり取りができていると、言われた方は始めのうち「私の目が好き?本当に?」という疑わしい反応をするんですが、本当だと分かるとテンションが上がって興奮して来ます。
 どちらかが相手の心を動かそうとする意識が弱かったり、あるいは相手の気持ちを汲もうとする意識に欠けていたりすると、いつまでも単なる言葉の応酬で終わってしまうこともあります。
 前回までのワークショップでは台詞の言い方で状況や思いを感じるということをやって来ました。この練習でも声の五要素や声の響かせ方を工夫している人がいました。ただし、テクニック先行だとあざとい感じになってしまうので難しいところです。
 舞台上の台詞のやり取りには「心(思い)」がなければいけません。人は相手に(時には自分に)何かを伝えたいから言葉を発するのです。
ところが、この伝えたいという思いが稽古の中で形だけになってしまうことがあります。台詞がうろ覚えの時にはついつい台詞にばかり気を取られてしまって、相手の台詞の間に自分の台詞を確認していることがあります。また、台詞が入って来ると今度は同じ台詞のやり取りに飽きてしまって感じたフリの演技になってしまうこともあります。
 こういうことがありました。本番の舞台上で俯いて相手役の女性の台詞を聞いていたら、いきなりにわか雨のように水滴がボタボタと床を濡らしました。それは彼女の涙でした。いつもと違うその出来事に私の中で強く心が揺さぶられて本物の感情が湧いて来るのを感じました。
 この例は台詞ではありませんが、もしも相手役がいつもと違う言い方で台詞を伝えて来たら、そして自分がそれをしっかりと聞いていたら、そのたびごとに心が動いて、いつもと違う台詞が出てくるのではないかと思うのです。そうすれば自分自身も台詞のやり取りに飽きることはなく、いつも輝きを持った台詞を生み出せるのではないでしょうか。
 
 レッスンの続きです。
 
⑨あらかじめAの人に、「途中で『あなたの目が嫌い(君の目が嫌い』と言い換えてください」と伝えておいて実行してもらいます。
⑩いきなり「嫌い」と言われてどんな気持ちになったかBの人に感想を言ってもらいます。
⑪A「あなたの目が嫌い」B「私の目が嫌い(みんなは好きなのに)」というやり取りを繰り返して心が動いたら手を挙げてもらいます。以下⑤~⑦をやります。
 
 たまたま2回続けてレッスンをやることができたので、前回の練習で⑨を仕込んでおきました。
 でも、この後半の「嫌い」の稽古はあまり長くやらない方がいいそうです。言われた方の感受性が強いと本当に落ち込む危険性があるからです。
 
 さて、次のレッスンです。
①ABに対面して立ってもらいます。
②A「ねえ、やってよ」
 B「だめだよ」
 A「どうして?」
 という台詞を示します。
③少し時間をとって、どういう状況か(ABはどういう関係で、AはBに何をやってほしいのか)をABに相談してもらいます。
④台詞のやり取りをしてもらいます。
⑤何度か繰り返した後で、AにBの台詞の間に「どうして」という台詞を用意していないか確認します。用意しているようだったら「だめだよ」の強さや言い方によって「どうして?」を変えるように指示します。
⑥何度か繰り返します。
⑦ABを交代して繰り返します。
⑧AB、見ている人にそれぞれ感想を言ってもらいます。
 
 人は誰かに何かを伝えたいから台詞を言います。そして多くの場合は相手にある「行動」をとってほしいのです。
 この台詞の場合、AはBに何かをやってほしいと「行動」を促します。でも、Bは何かの理由でそれを断ります。その理由がAの「目的」を妨げる「障害」になります。Aはその「障害」を何とかしようとして理由を問い質します。
 例えばAとBが夫婦だとします。AとBは共稼ぎで疲れ果てたA(妻)が今日くらいはB(夫)に食器洗いを頼もうとします。しかし、Bは頑なに拒否。Aは頭にきて「どうして?(たまには代わってくれてもいいじゃない)」と言います。この場合の「どうして」は疑問というより反語ですね。この後にはかなりの修羅場が続きそうです。
 それが同じ夫婦でも新婚の設定だと、A(妻)が甘えて「ねえ、やってよ」と言ってみると、B(夫)も本気ではなくわざと意地悪で「だめだよ」と返し、Aも身体をくねらせて「どうして?」と色っぽい台詞になる。この後の展開はちょっとここには書けません(笑)
 この二つの例の違いはB(夫)の「目的」です。前者は「皿洗いをやりたくない」ということを相手に伝えることが目的ですが、後者は「皿洗いはやってもいいが、そのやり取りをきっかけに妻と仲良くしたい」というのが目的です。当然ですがBが何を「目的」にしてAにどういう「行動」を促すかによって最後のAの台詞は大きく変わってきます。
 
 レッスンの続きです。
 
⑨何組かやって、最後の組のBの人に耳打ちをして、「だめだよ」の台詞を途中で「いいよ」に変えてもらいます。これも前回やった人にお願いしてありました。
⑩突然「いいよ」と言われた人は大喜びします。
 
 後半のレッスンは鴻上尚史氏の『表現のレッスン』からお借りしました。ただし解釈についてはあくまで私見です。
 鴻上氏も著書の中に書いていらっしゃいますが、演技とは台詞をしゃべることではなく相手の台詞を聞くことです。真剣にコミュニケーションをとろうとすれば、毎回違う相手の言い方に気付いて自分の台詞も変わるはずです。
 
 5回に渡って台詞に関するレッスンをやってきました。西田先生は「一声」つまり役者にとって最も大切なのは「声」だとおっしゃっていました。繰り返しになりますが役者にとっての「いい声」とは状況や感情によって自由自在にコントロールできる声だと思います。ここまでのレッスンでは声の五要素、ハミングなどのレッスンによって、声の可能性を探ってきました。そして相手に心を伝える台詞とはどういうものかを探ってきました。
 次回からは姿勢や動作に関するレッスンをやります。役者にとって声の次に大切な「二振り三姿」も、ただ美しいということではなく状況や感情によって自由にコントロールできる身体だと思います。年齢を重ねるに従って動きに制限が出てくるのは仕方のないことですが、できる範囲で今よりも雄弁に表現できる身体を目指そうと思います。

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