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『やまんば おゆき』と姥捨て [やまんばおゆき]

座・劇列車の30周年公演の演目『やまんば おゆき』は姥捨ての話です。

おゆきは信濃の山村で育ちました。18歳の時に国境を越えて遠江の村に嫁ぎましたが、その村には60歳になると巡礼に出なければならないという掟がありました。もちろん巡礼に行った老人たちが再び村に戻って来ることはありません。そのまま旅のどこかで行き倒れるか、村人にとって禁忌となっている「バチ山」という荒れ地で死を待つしかありません。

棄老(姥捨て)伝説は各地にあります。柳田国男の『遠野物語』で有名な岩手県遠野地方にはデンデラ野と呼ばれるかつての姥捨ての土地があります。村田喜代子の『蕨野行』の舞台もここです。私も自転車で回ったことがありますが、デンデラ野は山のあわいに捨て置かれたようなとてもさびしい場所でした。おそらく作中の「バチ山」もこのデンデラ野のようなところでしょう。

『蕨野行』は映画化されて、劇団と関係の深い女優市原悦子さんが主演していました。また、劇団民藝によって舞台化もされています。千葉市出身の役者斎藤尊史さんの演技が見事でした。

姥捨てのことを題材にした小説で有名なのは深沢七郎の『楢山節考』ですね。これは甲斐の国が舞台です。私は高校生の時にこの作品を読んで衝撃を受ました。同じ作者の『東北の神武(ずんむ)たち』もそうですが、かつての農村の貧しさ、そして抑圧された農民たちの内包するすさまじい土のエネルギーを感じる小説でした。

なぜ老人たちは村の掟を素直に受け入れたのでしょう。

老人たちが村の掟に従って捨てられることを選んだのは家族のためだったに違いありません。子や孫を飢えさせないために老人たちは自ら進んで捨てられたのです。

今、新型コロナの感染で多くの高齢者が犠牲になっています。高齢者よりも現役世代の命を大切にしろというSNSの書き込みも目にしたことがあります。本当にそれでいいのか。『やまんば おゆき』という作品を通してしっかりと考えてみたいと思います。


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